この日、私は渋谷の駅前にいた。昼ご飯をその辺で簡単に調達すべく、目に付いたパン屋に入った。そこには、一般的なチェーンパン屋よりも少々洗練された雰囲気のパンが陳列されており、中でもミートパイと、アプリコットの載った柔らかそうなケーキのようなパンが、非常に美味しそうであった。私はその2つをトレイに載せ、レジに並んだ。そして、会計の段になって目を剥いた。2個で1000円近いお値段――!! ぼんやりしてて、個々の値札を見てなかった!! いや、私が選んだパンの美味しそうさを考えれば、払うに差し支えない金額ではある。しかし、私という人間の昼食となるパン2個に見合った金額ではない。つまり、私は今ここでこのパン2個を買うとするけれども、これは夕食に繰り越すべきパンであり、昼食にはもっと庶民的なパンを買い直さなければならない。そして私はその通りにした。
その日の夜、バッグの中で押し潰さないよう大事に保持して持ち帰った2個1000円近いパンを、私は大事に大事に食べた。元々、その辺のパンよりも一回りほど大きいパンであるのに加え、ミートパイのミートは繊細にして満足感のある味付けであり、アプリコット菓子パンのアプリコットも大きく柔らかくカスタードは瑞々しく、私が今まで食べたパンの中で、最も高値であると同時に最も美味しいパンであった。しかしこんなパン、次はいったいいつ食べれば良いのやら。