友人が「久々に食べたい」というのに付き合い、すぱいすのインド風カレーを食べに行く事になった。私の方は、仕事で若干遅れざるを得ず、よって友人には店へ先に入ってもらい、私の分とあわせて前もって注文してもらう手筈とした。
仕事を片付け、閉店ギリギリに店へ滑り込むと、営業終了間際にも関わらず人口密度が高く、店の人気ぶりを伺わせた。友人が待つテーブルの横にも、若い男女の2人組が座っていて、慣れない感じでメニューを熱心に覗き込んでいる様子であった。
先に注文してもらっていた甲斐あって、間もなく、私達のカレーがやってきた。私のカレーは、牛筋トマトカレー。牛筋の脂とトマトの酸味が、カレーの辛さを程良く和らげて、非常に心地良い。かつて夏季限定だったのが、いつの間にか販売期間が延びていたのは、嬉しい誤算である。この店のカレーの中で、いちばん好きなメニュー……なのだが、今日に限ってはどうも様子がおかしかった。私が好む辛さよりも、辛味が若干強いように感じるのである。一体どうした事だろう、しばらく通わない内に、私の舌が退化してしまったのだろうか?
訝しみつつ食べ進め、何気なく友人に、「このカレーはいつもより辛く感じる」旨を語った。すると友人が、「あっ」という顔をした。そして語るには、他店の感覚で、つい「中辛」を頼んでしまった――と。私はすっかり腑に落ちた。舌の退化ではなかったのに満足して、答えた。「私も忘れてた。ここのカレーは一般的な店よりも辛いから、『中辛』を注文すると、一般的な『辛口』レベルのが出てきちゃうんだったよね」
今度は隣席のカップルが、「あっ」という顔をしたのが見えた。ふと気付けば、あんなに熱心にメニューを覗き込んでいた彼等なのに、いざ食べる姿は熱心には見受けられないのだった。もしかすると彼等も、どうやらカレーが予想よりも辛過ぎたようなのだった。私とすっかり同じ体験をしているのだった。私と彼等の違いは、私はただ忘れていただけで本当は知っていたから問題ないのに対し、彼等は今に至るまで知らなかった点なのだった。
彼等と店の双方を、大変気の毒に感じた私であったが、双方共に声をかける義理がなく、敢えて動けばただのウザお節介キモばばなのだった。この先「すぱいす」を訪れる誰かが同じ轍を踏まぬよう、祈りを込めてweb日記に書くしか術がない己が、大層無力である。
2009年回想 66(世界はニャーでできている。-なでしこ館-)・銀座で西麻布で青山で。(烏森口の女王)/ 「2009年 ノラネコ総決算」(mntlog/教官不定期日誌より)/BREAK“Cat With Tissue Box Stuck on Its Head”(小太郎ぶろぐより/教官不定期日誌経由)
ジャストフィットなティッシュ箱を被ってしまった猫が、箱を取りたくて、室内を延々と後ずさり続ける。無力な様と哀れでか細い鳴き声。<“Cat With Tissue Box Stuck on Its Head”