混雑した電車の中で、読む本に没頭するあまり、周囲の人間にもたれたり肘で押したりし、しかもそんな己に全く気付いていない輩が苛立たしい。そいつの読んでいる本が、垣間見える文面からしてつまらなそうだったりすると、「つまんない本如きに夢中になって、他人に迷惑かけてんじゃねーよ」と思わずにいられない。しかし、逆に考えれば、想像力や他人への共感能力を持ち合わせない人間が好む本なのだからして、つまらないに決まっている。
「他人を無頓着に圧迫しつつ電車で読書する人間の読む本はつまらない本」との結論は、私の苛立ちを慰める助けにならない。その本に対する知識を私が蓄えていると仮定して、周囲の人間を押しのけながら本を読む人間の耳元で、ネタバラシする自分の姿を想像し、ようやく少しばかり溜飲が下がる。