沢田知可子の「会いたい」と言えば、1991年を代表する大ヒット曲である。メロディラインの綺麗さ、歌声の透明さは勿論、片一方が理不尽に死ぬ事で完成する切ない片想いに、まだ高校生だった私は非常に心惹かれていた。「幼かったから、安易に人が死ぬ歌にも心動かされた」という話ではない。中年に至った今でも、安易に人が死ぬ歌や物語に、私は心と涙腺を動かされてやまない。条件反射や脊髄反射の域である。
さて、「会いたい」のシングルB面に収録されていた歌が、「Silent Rain」であった。仕事の中でちょっとした挫折に出くわして、恋人に慰めを求めた女性が、月並みな言葉であしらわれ、幻滅する、といった物語である。当時の私は、この歌にも非常に心動かされた。「仕事する女性なんて、順調に働いてたってきっと大変なのに、スランプにはまってたらもっとずっと大変で、彼氏との精神的交流でそこから脱け出そうと考えるなんて健気も良いとこなのに、相手の男はそんな彼女の気持ちも知らず、上から目線の糞役立たずなアドバイスをして馬鹿みたい! 主人公が可哀想!!」――といった感じに、感情移入していた。
しかし、あの歌を聴いた年齢の倍を越し、その半分程の月日をずっと働き続けた今。少なくとも「Silent Rain」に対しては、当時程には感情移入できなくなった。だって、女性が仕事するのが大変なのと同じぐらい、男性だって仕事するのは大変で、なのに女の方ばかりが、「一番そばで抱いていてほしかった」だの、「あなたの前で子供でいたいと思う」だの、「眠くなるまで泣いて甘えたかった」だの、一方的な要求ばかり。パートナーにこの手の甘え方をしたいのであれば、この女性は、いっそ仕事をすっぱり辞めて、専業主婦に成るべきである。