ある休日、ある動物園での話。園内をぐるり廻って動物を眺め撮影し、帰りにまだ時間があるので手早くもう一巡していた。そこの「子供動物ふれあい広場」には、ヤギやミニブタに混じって、大きなリクガメがいる。閉園時間が迫る頃合で、触れ合い時間は既に終了しており、柵で囲われた中を大きなリクガメが徘徊していた。柵の外に親子連れが立ち、中の1人の少女がリクガメに向かって声を張り上げていた。
「カメー、こっちー!! カメー、こっち来てー!!」
声の意味は判らずとも、とりあえず声のする方向に反応を示しているのか、リクガメは少女のほうを目掛けて力強く歩み寄っていた。カメ、しかもこんな巨大な個体と意思が通じるだなんて、犬や猫と意思が通じるよりも、レア度の高い交流であるように思われた。私は、オトナぶった上から目線の微笑ましさ9割と、オトナげない羨ましさ1割を胸に、少女とカメを眺めていた。
リクガメが柵に触れんばかりにまで近寄ると、少女は母親と思しき女性の傍に駆け寄った。「カメさんは私の言葉がわかるんだよ!」的、子供特有の無邪気な傲慢さを孕んだ得意げな言葉を期待した私であったが、実際に少女が発した言葉は、全く期待を裏切った耳を疑う内容であった。
「わたし、カメって苦手」
だったら呼ぶなよ!!! カメさん可哀想!!! 声をかけて振り向かせるのは単に積極的なだけだけども、好きでもないのに声をかけてしまうとなると、これは病的な魔性の振舞いの領域。願わくば彼女の魔性が、この先も人間以外の生き物だけに向けられていますように。
ミニブタさんとお昼ね(&鶏/動物の写真)・ルリコンゴウインコ(のんびりと動物園散歩)/「まるで双子…毛並みがいっしょの猫と犬とウサギの写真17枚」(らばQ/教官不定期日誌より)