2008-08-10 「崖の上のポニョ」他 [長年日記]

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崖の上のポニョ(監督:宮崎駿)

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「ゲド戦記」のゴタゴタに感化され、「ポニョ」も観ないものと自分の中で決めていた。が、ローソンのポニョ半魚人形態ぬいぐるみのキモ可愛さに心惹かれ、「これの原型を確認できるなら、観る価値があるな」と思ってしまい、あっさり観に行ってきた。

後部座席の子供による背もたれ蹴り上げ複数回攻撃に耐えて観終わった直後の感想は、「映像:良かった」「物語:まるで受け付けない」だった。それぞれ具体的に書くと、まずは映像。宮崎アニメといえば“飛翔”シーンが売りだと私は思っているのだが、今回は「海中で多種多様な生物がそれぞれに泳ぎ回る様」&「波の上をポニョが疾走する姿」等、“飛翔”に似ているけれども重力感の異なる加減が、定番に新鮮なアレンジを加えた風で良かった。また色合いも、開始直後は「今回しょぼいなー」と感じていた筈が、フジモトの海中実験辺りからもう、鮮やかにして落ち着いた色合いに飲まれ、ワクワクしっぱなしなのに気疲れせず、とても愉しんだ。

一方、物語。主旨ではないと理解しているけれども無視し難い大きな断片として、「自分を助けてくれた宗助のところへ行きたいポニョの意志と行動が、世界を滅亡寸前に追い込む」というのがあって、この視野の狭い身勝手さが、幾ら“ポニョはまだ幼い子供”であっても、許容し難かった。また、宗介周辺に限定された危機的状況が牧歌的に回避され、前述の世界的危機はごくあっさり示されごくあっさり解決し、「終わり良ければ全て良し」&「大人達は子供のヤンチャ如き、大きな包容力でもって受け止めてあげるから、安心して常に全力投球してごらんよ」的大団円なのも苛立たしかった。この、お子様中心周辺歪曲的物語展開の前には、「宗介のお母さんがDQN運転」だとか「宗介両親が子供に名前呼び捨てさせ」だとかは些細過ぎて、また一応理屈のつけようがあるので、完全にどうでも良くなった。

だがその後、自分内の相反する評価に気持ち乱されて、喫茶店に入りバニラ蜂蜜甘ったるいミルク珈琲を飲みながら、映像でも物語でもないキャラ達について、中でも「宗介始め世界に愛されまくるポニョ」と「ポニョに関わる妙に物分りの良い人々」のどちらにも該当しないフジモトについて考えていた時に、あくまでも私なりにだが、今回の物語がこのようであるべき理由を見出す事ができた(――ような気がした)。

フジモトは、海底のゴミに代表される人間の悪と人間そのものを憎む余り、人間である事まで捨てて自然の側に与し超常的な力を手にした存在である。その彼が手ずから生み出し教育も施したポニョは、本来ならば長じて自然を擁護する“戦闘美少女”、既存作品ではナウシカやサンといった存在になり得た。言い換えればフジモトは、これまでの宮崎駿自身であった。しかしポニョは、自然調和なんぞ歯牙にもかけず、「ポニョ、宗介、好き! 宗介のところ、行く!」を優先させ、逆に自然と人間界とに大いなる混乱をもたらした。また、自然超常の最も大きな存在の一つであろうポニョ母は、そんなポニョを応援した。その結果、ポニョ父=フジモトは、彼の信念である自然調和の回復に奔走した上で、自分の信念を捨てるでもなく、かといってポニョを敵認定して真っ向から戦うでもなく、物語の“障害”役として配置されたにしては極めて穏便に、最終的にポニョの決断を受け入れ宗助にポニョを託した。

あくまでも私個人が要するには、今回のポニョ中心周辺歪曲的物語展開は、これまでの「目先の利便性追求による自然破壊、カッコ悪い」を通過して、「自然調和よりも、ピースな愛のバイブスでポジティブな感じでお願いしますよ」に到達した結果であった(到達地点は最終地点とは断定できず、あくまでも通過地点かもしれないので念の為)。この見方に則ると、今作は「ポニョと宗助のピースな愛の(略)が他の全ての要素に勝った」物語以外の何物でもないのだから、ここに「宗助の成長」等の要素を期待するのは野暮であるだろう。もっとも宗介は、5歳の少年にも関わらず、嵐の中母親不在の家を守ったり、帰ってこない母親を探しに出かけたり、十二分に活躍して立派であったと思う。

それにしても、フジモトは素敵キャラだった。生真面目で黙々と頑張り屋さんで、他人の目に触れないところでも自己流にオシャレしてて、他人との交流が上手くないので宗介母から初見キモがられ&老人ホームの老婆達から「いい人なんでしょうけど……」扱いされて、ポニョに研究台無しにされても当り散らしたり威張り腐ったりせず常に紳士的で(足元の土台たる魚達が崩されかけて取り乱すのは別にみっともなくない)、こういう人って好きだなあ。所ジョージの声が朴訥とした声色の真面目な口調が、すごく合っていた。もしも前述の私解釈が、誰かにけちょんけちょんに否定された場合、私にとってポニョの物語は単に「好きになれない話」に戻ってしまうけれども、でもフジモトがいる限り「観て損だった」とか思わずにいられる。

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