人間は、2種類に分けられる。身体が熱っぽくだるい時に、体温計の目盛りが高熱を示しているのを見て、「ますます体調不良が悪化する」人間と、「測る前よりは元気になる」人間――である。私は、後者に属する。自分自身が体調不良を感じていても、それは果たして本当に体調不良なのか、怠けたい気持ちが強まっているだけではないのか、見極めがつかなくて一層体調が悪くなる。体温計という客観的な指標が得られると、大いに安心して小回復するのである。
先日以来、体調が悪い悪い悪いと感じていたが、熱っぽさや痛みの類が全くなく、故に一層気持ちが沈み、久々の本社出勤で周囲に人が多い環境で、人々の一挙一動に無意味に腹が立ち、そんな自分を持て余し、とても疲れ果てていた。人気のない場所で気持ちを落ち着けようと、もよおしていないがトイレに行った。個室に入り、ジーンズをおろして洋式便座に腰掛け――露わになった自分の太股をふと見下ろして、驚愕した。小さく鮮やかな赤い斑点が、ポツポツと数個。慌ててシャツもめくり上げたが、自分の目が届く腹部には異常なし。個室を飛び出して鏡を覗いても、顔も(いつも通り不細工な以外に)異常なし。太股にだけ、赤い斑点があった。
再び個室にこもった私は、太股の赤い斑点を再び眺めた。痒みもなく、隆起もなく、指先で押すと消え、離すと再び現れる。見ている内に、気持ちが嘘のように晴れ晴れとするのを感じていた。これはいわゆる、蕁麻疹に違いない。疲労や寝不足が溜まると出るという、あの蕁麻疹。という事は即ち、私の身体は実際に疲れている。勘違いでも自意識過剰でもなく。体温計に並ぶ、新たな指標。私に安心を与えてくれてありがとう、蕁麻疹。
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