私は夢の中で、グラビアアイドルであった。年齢や体型に不足はない風だが抜きん出た魅力もなく、頭や性格といったプラスアルファの売りもなく、何よりも残念な事に顔が残念な、グラビアアイドルであった。デビュー直前直後は勢いで何とか押し出せても、その後安定して売り出していける顔ではない程度に不細工な、グラビアアイドルであった。当然、私は全く人気が出なかった。事務所は、私という不良在庫の扱いに苦慮した。そして、私に厳命した。「アクション映画にねじ込んで出演させるから、全力で頑張って成果を出せ」と。
私は、グラビアアイドルであるので、静止画・動画問わず撮影には慣れている風であり、カメラの前に立つ不安は皆無であった。しかし、アクション俳優ではないので、アクションシーンには全く慣れていなかった。映画製作陣もその事を熟知しており、私はアクション演技について、何一つ期待されていなかった。しかし私は、全力で頑張らなければならなかった。
私が挑む撮影は、次のような段取りの場面であった。「迫る危機から逃れる為、現在の足場から跳躍して、隔たった位置にある何らかのオブジェクトにしがみつく→その弾みにオブジェクト自体が安定を失い、私ごとジェットコースター的に移動→頑張ってしがみついている→やがてオブジェクトは落下の危機を迎える→落下寸前、再び跳躍して次のオブジェクトへ→以下繰り返し」――芸人が体を張る過激バラエティ番組をベースに、幾分体裁整えてみました的な、陳腐だけれどもツボを押さえた、まさに王道的なアクションであった。
リハーサルで自分の動線と跳躍タイミングを把握した後、いよいよ本番。ところが、1回目の「跳躍→オブジェクトにしがみついてオブジェクトごと移動」を何とかこなした私は、そこで安心して気を緩めてしまい、2回目の「跳躍」を失敗、次のオブジェクトに到達できなかった。慌てて手近な足場に降りるも、予定と外れる行動である為、何の仕掛けも作動せず無駄に危険なばかり。大慌てて他の場所に跳び移り、更に他の場所に跳び移り、本来のルートを大幅に外しながらも、最終的には目標の着地点へと何とか復帰し、最初と最後だけ帳尻を合わせる形となった。
私のミスにより、私のアクションシーンは想定より随分と地味な仕上がりとなった。しかし、現場の誰も私に期待していなかったので、私は誰の期待も裏切らず、よって誰にも責められず、そして撮り直しも行われなかった。私はこのまま、この地味なアクションシーンを最後に、芸能界から静かに消えていくのだろう。
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夢を見ている最中に、「これは夢だ」と薄々察しており、具体的にはアクションシーンの最中に「もしも大失敗して大落下したら、そこで目が覚めておしまいだぞ」と考えていた。また、自分がグラビアアイドルだという設定にも関わらず、自分のナイスバディぶりを確認する場面がなかったり、そもそも事務所が私の整形手術を計画したりしなかったのは、アリアリと私個人の想像力の限界で興味深い。