久々に“欧風カレーの聖地”のカレーでも食べようと、トマトに行ったら満席だった。その隣の飲食店「ひで鉢」が前からそこそこ気になっていたし、雨降りの中を店探して歩き回りたくないし、とりあえず入ってみたところが大当たりだった。
「ひで鉢」が気になりながらも今まで入らなかったのは、そこが「『日本料理屋』の看板を掲げた、ぱっと見『飲み屋』」だからだった。見た目通りに「カジュアルな日本料理屋」であってくれれば良いのだけど、「本気と書いてマジとも読ませないぐらいに本気な『超本格的日本料理屋』」であれば、私の経済力ではまるっきり手が届かない。逆に「『日本料理』は名ばかりの実質『飲み屋』」であれば、最近とんと飲まなくなった私は場違いになってしまう。
で、勇気を出して入ってみたのだが、そこは「カジュアルな日本料理屋」だったので胸を撫で下ろした。メニュー内のすっぽん料理や前沢牛に真剣に取り組むと数千円飛ぶようだが、焼き鳥重や角煮重といった庶民的な食事メニューなら1000~2000円台でいける様子。値段を確かめた上で、表のメニューで最も気になっていた、「すっぽん雑炊」にチャレンジしてみた。雑炊だけだと偏るので、「野菜の炊き出し」(?)も合わせて注文。
先に出てきた野菜は、取り立てて好物ではない里芋さえもやたらと美味しく感じられる、絶妙な火加減とだし加減。元より好みな南瓜や湯葉は、当然更にその上を行く美味しさ。こういう和風料理の美味しさというのは、際立って美味しい物を食べた場合でも、脳が興奮するのの逆にやたらと気持ちが落ち着く不思議。「美味しいからしみじみとする」というより、出汁そのものがしみじみとさせる何らかの物質として働いているのかもしれないな、と思った。
そして、お待ちかね「すっぽん雑炊」。記憶の限りでは、初すっぽん体験。すっぽんの見た目や棲む場所や逸話から、多少生臭かったり脂がキツかったりとアクの強さを覚悟していたところが、旨味はしっかりありつつも案外あっさりしており、ご飯にところどころ混ざる肉はゼリーのようにプルプルで、なかなか美味しい食べ物だった。しかし、羊肉のあの独特の香りが判別できるまでに数回の食事回数が必要だった私の事だから、すっぽんの味を把握できるようになるまでも同じぐらいはかかるだろう。1食800円だから、通い詰めても懐痛まないのはありがたい。夏バテの残暑と食欲の秋と寒さ深まる冬に通っていきたい。