2002-04-10 教科書に載らないからこそ山田詠美/「悪意」 [長年日記]

[その他]教科書に載らないからこそ山田詠美

よるねこさんおーたさんのコメントを参照して見に行った、「馬鹿」は差別的を理由に山田詠美の小説が国語教科書から差し替えられたという記事。

私は一時期山田詠美にはまっていた事がある。「ぼくは勉強ができない」も読んだが、学校や教師がステレオタイプな卑小さに書かれているようで、あまり好きではなかった。でもその女の子版とも言える「放課後の音符」は、透明感があって好きだった。いちばん好きだったのは、著者の半自伝とされる「ひざまずいて足をお舐め」。SMクラブの女王様達の感性が、これまた猥雑な中に透明感があって良かった。

冒頭の記事に戻って、「作品中の『馬鹿だから』というセリフなどが『差別的』と判断された」は理由にもなってない理由なので「ばかばかしくて、お話にならない」のは全くその通りだと思う。でも、「勉強より素敵な事がたくさんあると考える男子高校生の日常」を教科書に載せようとした意図がそもそも理解できない。問題提起を通り越した教育の自己否定でしかない。それにこの手の本は、学校や親に与えられるんじゃないところに価値があると思うのだけど。

[読書]悪意(東野圭吾/講談社文庫)

出版社作品概要

東野圭吾は何を書けばもったいなくないのか?と尋ねられたら、この本や「秘密」「分身」等を挙げる。個人的趣味。

被害者の親友と事件を追う警察官、それぞれの手記によって語られる、ある殺人事件の真相。無駄を省いた明快な文体・同じく無駄を省きつつ、幾重にも重なった複雑な構成・その底を流れる深い動機のバランスが素晴らしくて、私が今まで読んだ東野圭吾作品の中で最高作だった。「強い」人間が、自分の強さが周辺の「弱い」人間に及ぼす皺寄せに気付かない限り、「悪意」は常に存在し続ける……というのが私の深読み。しかし皺寄せに気付いてしまえば、「強い」人間は強くいられなくなる矛盾。

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